料理とスタバは証明問題
Yは料理がド下手くそだ。
ある程度パターン化されていて、持つ知識から順序立てて正解が導けるもの(英語の文法や高校数学、プログラミングなど)は人並み以上に出来る。
反面、料理や掃除洗濯など、「過程はどうあれ何かしらが出来る」みたいな、曖昧なものがとても苦手だ。
料理は味に正解がないし、片付けはどこまでやればいいかわからないと言う。
想像するのがとにかく苦手なのだ。
だから、ハンバーグを作るとなってスーパーで買い物をしている時に「パン粉と牛乳を取ってきて」と頼むと「メロンパンとコーヒー牛乳ならうちにあるよ」とか言い出す。
メロンパンとコーヒー牛乳をつなぎにハンバーグ作ってみろバカ。
そんなわけでYは1人の時は外食かコンビニ、Yの家に私がいれば私が料理をすることになっている。
しかし、そうめんを凍らせたり海水丼を錬成したりメロンパンバーグを作ったりする男なりに悩んではいるらしい。
自分がASD(いわゆるアスペルガー症候群)なのではないかと疑っているようだ。
そこまで困ってないから診断出ないだけで、特性としては間違いなくそうなんだけど。
そこで、Yにある提案をしてみた。
その名も「料理=証明問題説」である。
数学やプログラミング言語と違い(この辺は専門外なのでイメージ、違ったら申し訳ない)、料理において例えば「この野菜を切りますか?yes/no」を反復していくことで何か美味しいご飯が出来ることはあまりない。
だからできないと言うのなら、yes/noで出来るように考え方を転換すればいいではないか。
「パン粉と玉ねぎを使ってハンバーグ出来ることを証明しなさい。」といった塩梅だ。
「余弦定理を用いてトレミーの定理を証明しなさい。」ならば、Yは余弦定理をどう用いるか、どこで使うかと考えて正解を導き出すことができる。
同じように、最初に「ハンバーグ」という定理を作っておいて、玉ねぎは具材でパン粉はつなぎに使うんだ、とわかれば手順をある程度想定して料理が出来るのではないかと考えたのだ。
Yにこれを説明すると「それだとメッチャできそうだし楽しそう!」と目をキラキラさせていた。
慣れてくれば、トレミーの定理は中学の相似からも証明できるように、ナツメグは別に入れんでもいいなとかそういうのがわかってくるのではないのかと期待した。
今日は私の誕生日にプレゼントを買ってくれるということで買い物に行った。
途中歩き疲れたのでスタバに寄ったため、早速この「料理は証明問題説」を練習するときが来たな!と思っていた。
スタバのフラペチーノのカスタマイズ、どれをどうしてもメチャクチャ不味くはならないしそこそこ美味しくはなるからだ。
Yの食べたいものに近づける材料選択の練習にうってつけだ。美味しければ自信もつくだろう。
列に並びながらYはこう言った。
「チョコあじののみものがのみたいけど抹茶フラペチーノになにいれたらいいかな?」
どうやら私はYのアホさを見くびっていた。
抹茶フラペチーノは抹茶になるやろアホ。
仕方がないので私がお手本としてオーダーした。
バニラクリームフラペチーノヘーゼルナッツシロップ変更モカシロップ追加、アドチョコチップチョコソースエクストラホイップだ。
Yはなに飲んでるか自分でサッパリわからんらしかったが、ご満悦だった。
「これ何?」と聞かれたので
「バニラクリームフラペチーノヘーゼルナッツシロップ変更モカシロップ追加、アドチョコチップチョコソースエクストラホイップだよ」と答えたら
「ばにぺちーの……?」と衝撃の省略をしてきた。
それだと普通のバニラクリームフラペチーノもオーダーできるか怪しいぞ、Y。
Yがお料理を出来るまで、道のりは長そうである。