ポンコツ彼氏観察日記

愛すべき馬鹿の成長を見守る記録

Yくんとワタシは…ズッ友だょ……!!


私は激怒した。



Yは典型的ASDなので、日常的に生命が危険にさらされるレベルのミスをする。


私が針を調整してる時に唐突にめちゃくちゃミシン動かしたり私がピアノを弾いてる時にめちゃくちゃピアノの蓋を閉じたりする。



昨日の夕方から夜にかけて、Yがあまりにも注意力が足りず、またそれについて「誰かに助けて貰えばいいよね」となんの悪びれもなく宣うため私は非常に怒っていた。


別に助けてもらうのは全然良いんだけど、自分が助けてもらわないとイレギュラーを起こしてしまう、他人よりも迷惑をかけているということに対して、Yはあまりにも無責任だ。


そりゃあ、そんなあなたの周りに未だにいる友人たちはみんな聖人ばかりだろうから、快く手助けしてくれるんだろうけど。


そんなことを懇々と言い聞かせていたんだけど、びっくりするほど要領を得ない回答しか帰ってこない。しまいにはお出かけしてしまった。


もうなんか私は呆れ果てていた。



Yには「自分だったらどう思うか」という視点が、びっくりするほど、ない。


『自分がされて嫌なことはひとにしてはいけません』をその通り受け取って育った男だ。


それ故、深夜に突然大量のパスタを茹でて私に差し出し「今自分はお腹が空いているので、自分がされて嬉しいことを他人にした」などと平気で供述する。


義務教育の敗北だ。



また「自分がされたら嫌なことはしない!」と高らかに宣言するのは良いものの、気性が穏やかすぎて怒ることがあまりないため、結局『自分がされてもいいけど他人は嫌であろうこと』をめちゃくちゃやらかす。


ドタキャンとか、大した用事じゃないのに10日に呼びつけるとか、長時間他人を待たせるとかだ。


世の中の大学生はお前のように1時間で数万を稼ぐレアバイトにはこぎつけないし10歳からプログラミングで遊んで情報系に進学とかしてない。忙しいのだ。


Yにはそれがわからぬのだ。



更にYには「もし相手が嫌だと思っていたら?」という視点がない。


だから、悪気なく相手の逃げ道を封じる。

嫌だと言えないような、いいよと言うしかないような頼み方をする。

平気で「嫌だったら言ってくださいね!」とかいう。


邪智暴虐の王である。



私はつまりこの最悪の王をどうにかせねばならぬと思ったが、王は手強かった。



日暮れと共に家を出たYは、アイロンの電源を落とすのを忘れていた。


1人残された私はしばらくアイロン台から少し離れたベッドで不貞腐れていたのだが、部屋から香ばしい香りがすることに気付いた。


見ると、服が燃えている。


私はちょうど火刑になるところだったのだ。


超絶びっくりした私は、疾風の如く台所へ行き、つけおきしていた米びつに入った米ごと水を炎にぶっかけた。


間に合った。


幸運なことに床は焦げておらず、服が焦げただけで済んだ。


驚きと怒りで疲れ切った私は、泥のように眠った。



翌朝Yが帰宅し、事情を説明するとYはこう言った。


「俺を殴」


言い終わる前に思いっきりぶん殴った。

死刑になるところだった。


気が動転したYは、何を思ったか突然服を脱ぎ始めた。なんでそうなるの?


意味がわからないので、燃えた残りからワンピースを手渡した。


Yはひどく赤面した。