かれぴっぴの愛情たっぷり氷水
水を凍らせて氷の状態にすると、体積が増える。
H2O分子は真っ直ぐな形状ではないため、バラバラの液体の時より、美しい結晶になったほうが必要な体積が大きいらしい。
理知的で優秀な工学徒である彼氏Yが、いつだったか教えてくれたことだ。
理科は苦手だと話していたからか、水はOがひとつとHがふたつからできているというところから丁寧に説明してくれた。
(流石にそれくらいはわかる)
定期テストレベルで赤点スレスレ、センター試験の物理の合計点が英語のリスニングのみの点数を下回り、理系のくせに経済学部に行った私から見て、そういう話をわかりやすく、楽しそうにしてくれるYは魅力的に見えたものだ。
さて、先日の記事でも紹介したが、最近私たちはよくそうめんを食べている。
aflatter0913-nattune.hatenablog.com
この失敗からか、先日は「なっつんにとても美味しいそうめんを食べさせてやる」と意気込んでいた、らしい。
Yはこう考えた。
美味しいそうめんに欠かせないものは
・丁度いい濃さの麺つゆ(決してストレートで使ってはならない)
・適度な薬味
・麺の茹で具合
そして、
・よく冷えた水
だろう。
まず、麺つゆや白だしなどの類はストレートで使ったら海水並に辛いことを学習したので、ひとつ目の課題はクリア。
薬味は料理好きの彼女が色々買い込んでいる中から、生姜と刻みねぎを使う。これも完璧。
麺は袋に2-3分と書いてあったので、ストップウォッチで2分30秒計測すれば間違いない。不安なら味見すればいいのだ。完璧。
あとは氷水だ。
出来るだけキンキンに冷えたやつが良いだろう。これは秘策があるので、完璧だ。
よくTwitterで揶揄される理系のテンプレみたいな男である。
まぁそれなら失敗はせんだろう、と私は台所で吹きこぼれと格闘するYを眺めていた。
茹でた麺をどうにかざるにあげるY。
うんうん、上手くなったじゃん。
「ここで俺はキンキンに冷えた氷水につけるためにね……ん?」
「どうしたの?」
「水って凍らせたら氷になるよね……?」
「ん?」
みるみる半べそになっていくY。
どうしたの、と立ち上がってYに寄り添ったこの地点で、なんとなく嫌な予感はしていた。
半泣きでYが冷凍庫から取り出したのは、
ボウルいっぱいに固められた氷
だった。
「氷水をキンキンに冷やすために冷凍庫に入れておいたんだ……昨日から…。」
そう言ってべそをかくYを呆然と見つめながら立ち尽くした私の脳裏には、いつかの知的なYが浮かんでいた。
微分やら分子やら信号やら、小難しい理工系の学問は一切わからない私は思う。
水より氷のほうが体積が大きいのであれば、このボウルいっぱいに張られた氷は、Yが水を張った時より、少し増えてるのか。
Yが私に美味いそうめんを食べさせようと、水を張ったその時に想いを馳せ、賢いのか馬鹿なのかわからない男の肩に、私はそっと手を置いた。